訪米報告 地域社会を突き動かす労働運動~ ロサンゼルス労働運動を訪問しました!!

下町ユニオンニュース 3月号より
天野 理(ふれあい江東ユニオン・東京労働安全衛生センター分会)
 2019年2月1日~11日にかけて、高須裕彦さん(法政大学大学院フェアレイバー研究所)のコーディネートにより、ロスアンゼルスの改革派労働運動(コミュニティと連携する社会運動ユニオニズム)を学ぶ訪問企画が実施されました。この企画には、日本の労働組合活動家および労働弁護士、計6名が参加しました。
●活発化するロサンゼルスの労働運動
 ロサンゼルスでは1990年代後半から、移住労働者の女性たちを中心とした労働運動が盛り上がり、それが労働者の政治的な声や団結を高め、ロサンゼルスの地域社会全体を突き動かす、公正な経済や社会正義を求める運動に発展しています。今回の訪問の直前、今年1月には、ロサンゼルス教員組合(UTLA)が教育の民営化に反対し、30年ぶりのストライキに突入。公立学校の生徒やその親、そして地域社会の支援を受けて全面的な勝利を収めています。
 今回の訪問では、ロサンゼルスの労働運動を繫げているロサンゼルス郡労働組合評議会や、UTLAをはじめとした幾つかの労働組合、地域に密着して労働問題に取り組むワーカーズセンターという民間組織、労働問題の調査分析と政策提言・キャンペーンを展開するシンク&アクトタンク(UCLAレイバーセンターなど)を訪れ、ダイナミックな活動の様子を伺うことができました。特にUTLAでは、書記長のアイリーン・イノウエさんから、今回のストライキの経緯を詳しく伺いました。
UTLAアイリーンイノウエ
UTLAのアイリーン・イノウエさん(写真中央の女性)と記念撮影
●教育の民営化と公教育の荒廃
UTLAは、全米で2番目に大きいロサンゼルス(LA)教育区の教員たち、約3万4千人を組織化している労働組合です。書記長のイノウエさんは日系アメリカ人。高校での軍隊の採用活動への反対運動をするなど、人権活動家としても知られている方だそうです。
 彼女は、今回の闘いの背景には、チャータースクール増設による「教育の民営化」の問題があったと言います。1980年代から始まった公設民営のチャータースクールは、いまやLAの学校の20%を占めています。税金が投入されているにも関わらず、何の規制もないため、投資会社の投資対象として、地域の実情を無視して次々と作られてきたそうです。また、チャータースクールに教育予算が割かれ、公立学校の子どもたちに予算が回らない事態になっています。
 一方、いまやLAの公立学校に通う子どもたち(その多くは黒人や中南米系)の8割が貧困層だそうです。チャータースクールを運営する企業らは、事業主団体を作り、巨額の資金を使って、教育委員会の複数の委員を抱き込み、教育長には元銀行家を就任させていました。
●闘う労働組合への変革
 闘いは2014年に始まりました。この年、UTLAの執行部選挙があり、イノウエさんらのグループが勝利します。
 イノウエさんたちは、「生徒のためのキャンペーン」を掲げ、何が本当に生徒のためになるのか、について組合員たちのなかで共通理解を作り、運動を進めていきました。また、「企業や資本家と闘う労働組合」という意識を、UTLA内部に広げていきました。さらに、組合の中に、教育行政の問題を探る調査部門を設置し、組合員の組織化のためのデータベースを立ち上げるなど、組合の基盤を固めました。
イノウエさんは、「組織を改革し、多様性を持つこと、女性を意思決定の場に入れることが重要です。また、様々な分野の専門家に入ってもらうことも大事です。」と語っていました。
●生徒や地域の声を踏まえた要求
 UTLAは、今回の市当局との団体交渉で、チャータースクールの増設停止や教育予算の増加、学校の看護師やカウンセラー、図書館司書などの増員、そして1クラスあたりの生徒数を減らすこと、といった教育環境に関する要求を重視して行いました。
 これは、生徒やその親たちと話し合い、地域社会全体の利益を踏まえて入れたものでした。そのなかには、学校でのレイシャル・プロファイリングを止めろという要求もありました。これは、黒人やムスリム、中南米系の生徒たちが、警察による学校内での身体検査のターゲットになっている、という問題です。
生徒たちからの要求に応え、UTLAはこの検査の中止を求めました。
UCLAレイバーセンター
UCLAレイバーセンターに貼られていた、教員ストライキのバナー
●地域社会も参加したストライキ
 UTLAは今年1月、ついに全面的なストライキに踏み切りました。LA市庁舎前の広場は、組合員を含む数万人の人々で埋め尽くされたそうです。「スト中は、毎日雨が降り続くなか、ピケをし続けました。ストには、教員だけでなく、生徒の親など多くの人が参加して連帯が生まれました。参加者はみな喜びに溢れていました。」
 市当局は、ストライキの圧力によってUTLAの要求を受け入れ、新たな協約が締結されました。イノウエさんは、「私たちは今回、ストライキは有効な手段だ、ということを、改めて認識しました。私たちはひとつも譲歩しませんでした。労働者自身が立ち上がることが重要なのです。」と力強く語っていました。
 今回のロサンゼルス訪問では、移住労働者や女性たちが作り出す労働運動の、多様性と普遍性を持った闘いの数々を、目の当たりにしてきました。労働運動には、社会を根底から変える力がある。閉塞した社会を打ち破り、一人ひとりの労働者の声や経験が尊重される社会へ、私たちは進んでいく力がある。そう感じました。
メッセージカード
ロス市内の全米日系人博物館に貼られていたメッセージカード