「自己責任論」の世界から、「生きるための制度を作る主体」としての「私たち」へ

下町ユニオンニュース 2021年12月号より

11月24日、下町ユニオン公開講座「コロナ禍で見えた貧困・格差・雇用」を聞いて

コロナ禍で見えた貧困・格差

 講師の藤田和恵氏は新聞記者を経て現在はフリーのジャーナリスト。労働・福祉・貧困問題を中心に取材を続けています。コロナ禍による困窮者への「駆けつけ支援」を行っている「新型コロナ災害緊急アクション」に密着取材した経験を元に話して頂きました。
 相談者が来るのを待つのではなく、相談者のもとに駆けつけて相談を受ける方式なのは、既に交通費もなく携帯の通話も止められ、無料Wi‐Fiだけでようやく相談に繋がる人が多いから。
 20代、30代が大半、外国人、女性、派遣やアルバイトといった非正規労働者がほとんど、仕事も、住まいも失い、所持金もゼロ。
 ところが、当事者達は「自分が悪いんです」と語ることが多いという。一つは知識がないために、一つは知識はあるが空気を読んで、一つはプライドを保つために、それぞれ「自分が悪いんです」という語りに至るという。生活を立て直すまでの生活保護を勧めても「生保を受けるくらいなら飢え死にのほうがいい」といって拒否する人さえいる。
 背景には、働き方の問題がある。「寮付き派遣」では仕事を失うことと住まいを失うことは同義である。
 登録するとメールで連絡が来て、その集合場所まで行ったのに、今日は仕事がないから、と返された、というのは、禁止された「日雇い派遣」に他ならない。しかし相談者からは「日雇い派遣をなぜ禁止するのか、僕たちは飢え死にしてしまう」、という反論をされたという。
 更に住まいの貧困もある。賃貸アパートで暮らしていたという人はほとんどいない。ネットカフェ、シェアハウス(ワンルームに2段ベッドで8人!)、脱法ドミトリー、レンタルルーム、店舗内住み込み、友人の家を転々など。
 自己責任論がはびこるきっかけには、自民党などの政治家やマスメディアといった現在の社会で支配的な勢力による、大々的な生活保護利用者たたきもあった、今コロナの沈静化で相談件数は激減したと聞くが、それで問題を再び無かったことにしてしまったら、十数年前の年越し派遣村で顕在化した問題をその後も解決してこなかったことの繰り返しになってしまう、と藤田氏は訴えた。
 私は、こうした個人攻撃=生活保護利用者たたきの言い方は、言っている本人を含めて各人をバラバラな「自己責任論」に萎縮させ、目の前にある貧困の実相を見ないことにして現実から逃避、結局、日本社会をどのようにしたらもっと暮らしやすい社会にできるのか、という、国家として最も重要な集団的議論を封じてしまう、言い換えれば「亡国」の態度だと思います。
 ユニオンはこうした派遣や非正規の問題にも積極的に関わってきましたが、「自己責任論」を解体することは、社会制度や政府を作るものとして「自己=我々」を再確認することだ、と強く確信しました。(石頭)

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