精神障害の労災認定基準が見直されました ~パワーハラスメントの項目の充実化など、前向きな改正あり~
(下町ユニオンニュース 2023年11月号より)
9月1日、厚生労働省は、精神障害の労災認定基準を12年ぶりに見直しました。今回は、その内容をご紹介します。
職場での長時間労働やパワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどが原因で、適応障害やうつ病などの精神障害を発症した場合、労災として治療費や休業の補償などが受けられます。
精神障害の労災認定では、労働基準監督署が、労災申請で出された仕事での出来事について、認定基準の中にある「具体的出来事」の一覧表に当てはめて、その心理的負荷を評価し、労災かどうかを判断しています。
そして、この「具体的出来事」として、パワハラやセクハラ、長時間労働、退職強要などの項目が列挙され、それぞれの項目について、あてはめる際の参考となる具体例が列挙されています。
今回の見直しでは、これらの項目が整理されました。特に大きな変化があった項目としては、以下の4点が挙げられます。
今回、見直された主なポイント
第一に、「パワーハラスメント」の項目の対象が拡充されました。今までの基準では、上司等からの身体的・精神的な攻撃しか例示されていませんでした。今回の見直しでは「無視等の人間関係からの切り離し」や、過大あるいは過小な業務を課すこと、プライバシーへの過度な介入などが例示に追加されました。さらに、「性的指向・性自認に関する精神的攻撃を含む」との規定も入りました。
第二に、非正規雇用を理由に差別的な扱いを受けたという項目について、「雇用形態や国籍、性別等を理由に、不利益な取り扱いを受けた」と、国籍や性別を理由とした差別や不利益な処遇も対象とする内容に見直されました。この変更により、職場での国籍・人種・信条・性別などを理由とする差別も、精神障害の労災申請での審査対象になってきます。
第三に、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」という項目が新設されました。新型コロナウイルス感染症の集団感染の中で、治療や介護などに従事している医療機関・介護施設の医師・看護師・職員などが想定されます。また、新たな感染症の問題が発生した際や、危険な化学物質と隣り合わせの業務なども、この項目の対象に入ってきます。
第四に、顧客や取引先からのハラスメント(いわゆるカスタマーハラスメント)に対応する項目が新設されました。顧客や取引先から暴行や脅迫、暴言、不当な要求などを受けた場合に、この新設された項目にあてはめて心理的負荷が判断されることになります。
このように、今回の見直しでは、労災の審査対象となる職場でのストレス要因の範囲が広がりました。
精神障害の労災申請は、一貫して増加傾向にあり、2012年度の1257件から2022年度には2683件と倍増しています。一方、精神障害の労災認定基準はかなり複雑な内容です。
そのため、審査期間の長期化(申請から決定まで平均6~8カ月ほどかかる)や、低い認定率(約30%)といった問題があります。
今回の改正を活かして、職場のパワハラやセクハラで苦しんでいる労働者がしっかり労災補償を受けられるように、労働組合の取り組みもますます重要になります。
(東京労働安全衛生センター・天野)