労災保険制度の危機~労災認定に対して事業主の不服申し立てが可能に~

厚生労働省の突然の動き

12月16日、都内で、政府の労働政策審議会(労災保険部会)が開催され、労災認定に対して企業が不服を申し立てられる制度を作ることが厚労省から報告されました。これは、国による労災保険料の値上げ(労災が起こった事業場への値上げ)に対して、企業による不服申し立ての手続きを整備する、というものです。しかも、その不服申し立ての際に、企業が、労災として認定された労働者の怪我や病気について、「労災認定の要件に当てはまらない(=労災ではない)」と主張して争うことができる制度を作る、という内容です。厚労省は年内にも新たな通達を出して、この制度を開始するとしています。

厚労省は、「もしこの制度で企業の不服が認められたとしても、労災保険料の値上げが取り消されるだけで、労災被災者が受け取る労災補償は取り消されない。だから、労災被災者への影響はない。」と説明しています。

しかし、新しい制度の下で、もし企業の不服申し立てが通れば、労災認定の根拠となった事実(長時間労働があった、深刻なセクハラ・パワハラがあった、など)が丸ごと否定されてしまうのです。労災の事実を否定する悪質な企業に新たな力を与え、労災被災者の立場を非常に苦しくする危険があることは明らかです。

企業が労災認定取り消し訴訟を起こすことを認める判決

一方、11月29日に東京高等裁判所で、「企業は労災認定の取り消し訴訟を起こすことができる」とする衝撃的な判決が出ました(今までは、そうした訴訟を企業は起こすことができない、とされてきました)。もし、取り消し訴訟で企業が勝訴すれば、労災認定が取り消されてしまい、労災被災者は受け取った補償を国に全額返納し、労災の治療も自己負担(健康保険)で行わなければなりません。まさに労災被災者の療養と生活を根底から脅かす判決です。この高裁判決はまだ確定していませんが、このような判決が出た以上、企業による労災認定の取り消しを求める裁判が増えていく危険性が高まっています。

労働運動が連帯して、労災被災者を守ろう!!

このように、国と裁判所の双方から、労災被災者の生活と権利を脅かす動きが表面化し、「労働者の負傷や病気に対して迅速かつ公正な保護を行う」という労災保険法の在り方が根底から破壊されようとしています。12月16日の労災保険部会では、会場の建物前で、労災職業病の問題に取り組む労働組合・労働団体が集まり、「事業主の不服申し立てを認めるな!!」と声を挙げました。

労災被災者を守るため、労働運動が団結・連帯して闘っていく必要があります。