「パワハラ防止法」は施行されたけど・・
下町ユニオンニュース 2023年2月号より
■1990年代以降、社会問題化したブラック企業での長時間労働などによる過労死・過労自殺、そしてその背景にある苛烈な職場のいじめ、いやがらせ。それまで「個人の問題」として済まされがちだった職場のいじめ・嫌がらせは、“ハラスメント”という表現を得て、労働者の人格や尊厳の侵害として社会的に広く認知されるようになりました。
「職場のハラスメント」として法的定義を持つパワハラ、セクハラ、マタハラをはじめ、アカハラ、カスハラ・・・日本のハラスメントは30種類以上に細分化され、コロナ禍を経た2023年現在、コロハラ、ワクハラ、ジタハラと、まだまだ増殖中です。
■2020年6月「労働施策総合推進法」一部改正が施行。通称「パワハラ防止法」「ハラスメント規制法」と呼ばれる同法律によって、大企業からはじまり、昨2022年4月には中小企業も含む全事業主に、①ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発②行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発③相談窓口の設置等、ハラスメント防止の措置義務が課されるところとなりました。あわてて相談窓口を「設置」する会社が増えているようですが、大切なのは実際のハラスメント相談をどのように向き合い、解決するのかという中身の問題です。
■「防止法」成立に先立つ2018年、厚生労働省はパワーハラスメントについての定義を以下のように示しました。「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの」
そもそも、多くの企業は自社のパワハラを認めたがらないものですが、そんな企業にとって現行の定義は、使い勝手がよい。なぜなら②に基づき“業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導”はパワーハラスメントにはあたらないとされているからです。
労働者の申仕立てに対する「業務上必要かつ相当な範囲か否か」の判断は、まさに雇用者マターです。申立てをしても、最小限のコンプライアンス(法令遵守)の範囲で「業務上必要かつ相当な範囲なのでパワハラにはあたりませんでした」と回答され、結局、何も改善されなかったという失望の声が多く聞かれます。
■会社内部では思うような解決を得られず、突破口を求めてユニオンや行政窓口などの外部機関に相談する人が後を絶ちません。
ハラスメント被害に悩む労働者を孤立させず、安心して働ける環境を確保するために、ハラスメントを許さない社会を作りために何が必要か。
2023年、さらなる労働組合の取組が求められていると思います。
(東京労働安全衛生センター 内田)