書評 「労働組合とは何か」 木下武男
下町ユニオンニュース 2021年7月号より
以前、ユニオンの学習会に来てお話しをしてもらったこともある、木下先生の新著です。
現在の日本社会を変えなくてはならないという強い問題意識からこの本は出発しています。
労働現場での規制は政治によるだけではできず、労使の交渉によるしかない。しかし日本では産業全体を規制する「本当の労働組合」ではなく「企業別組合」という「あだ花」が「年功賃金」と「終身雇用制」と共に日本的労使関係を支える柱となってきた。
その日本的労使関係から既に経営者は決別し、その結果として若者や女性を中心にした貧困と過酷な労働、雇用不安といった悲惨がある。一方、ヨーロッパ社会では移民や失業者が増え大きく揺らいではいても産業別労働組合と福祉社会の大枠はくずれていない。
この「産業別労働組合」を形成する力を「ユニオニズム」と呼んで、その理論と、日本の労働組合の未来を構想する手引きとしてこの本を書いたと著者は述べます。
中世の職人による自律的な組織=ギルドにまで逆上り、その職種別の自律性が、熟練労働者中心の職業別労働組合へ、さらに工場の大量生産方式への変化のなかで、熟練・上層労働者だけでなく流動的な労働者を含めたすべての労働者の組織、産業別労働組合に至った欧米の経験が描かれます。そういった社会では、企業の外の産業別労働組合が産業ごとの経営者団体と交渉することによって、「労働条件」を企業同士の競争条件の「らち外」に置き、いわば電気代や水道代と同じようにどんな経営事情があっても値引きできないものとした、という「たとえ」はとてもわかりやすく、ハッとさせられます。
日本においてユニオニズムの可能性が潰されていく戦前、戦後の経験も具体的な闘争をたどって描かれます。その結果、現在私たちが日常的に仕事について語る言葉は、自分が働く会社の経営状態というもの、あるいは業界の下請け構造などに常に限界づけられた世界の中で完結させられたものになってしまいました。
しかし、過去の日本的労使関係は既に崩壊しました。そして、崩壊後の、非正規や、若者たち「非年功型労働者」という労働者類型の自然発生的な運動エネルギー、すなわち、①会社にいても生活は良くならない、②転職しても変わらない。・・それでも現状にどうしても甘んずることはできない! という単純な思考エネルギーが、この国から貧困と過酷な労働を一掃しようという覚醒に転化したとき、個々の会社の枠を越えたユニオニズムの可能性が開かれる、と彼は主張しています。
今ある産業別の全国組織や合同労組、コミュニティ・ユニオンなどの業種別、職種別の部会が最初は二重加盟などいろいろなつながりで結びつき、交渉のスケールを個別企業の枠を取り払って広げていく、そして、一つのユニオンとして、成立していく・・、その構想は現在の閉塞感を打ち破る開放感につながっています。実際、コミュニティ・ユニオンの一員として具体的な行動としては何ができるだろうか、問われる思いです。日々の働き方に不合理と怒りを感じているすべての方に勧めたい本です。 (石頭)
※ 後日Amazonの書評にも投稿しました。