最低賃金ものがたり 7 最低賃金はどのように決まるのかその④

今回は、ズバリ「賃金」について。

 さて、地域別最低賃金の決定にあたり考慮すべき3要素のうち、今回は「賃金」について考えてみましょう。

 日本も一九七一年に批准した「ILO131号条約」では、最低賃金水準の決定にあたり考慮すべき要素として、「労働者と家族の必要であって国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付及び他の社会的集団の相対的生活水準を考慮したもの」をあげています。

 しかし日本は具体的な水準の目安となる数値目標について、最低賃金法等の法には示さず、毎年の審議の中で示す方法を続けてきました。また、目安を決める小委員会は、今年8月4日に出した報告で「中期的には『一般労働者の賃金中央値の6割』という目標を念頭に・・」と述べてはいますが、すぐに達成すべき目標としては掲げていません。このような進め方で、安心して生活できる賃金を実現できるのでしょうか。

 一方、EUでは2022年に「適正な最低賃金に関する指令」が制定されました。この「指令」は、最低賃金が通常の労働者の平均賃金の50%、中央値の60%を目安とすることが求めており、制定から2年後の二〇二四年十一月までの各国内での法制化を求めるものでした。これは、各国に共通する格差と貧困の拡大という切迫した課題を解決する重要な鍵が、最低賃金の引き上げにあることを示しています。この間のEU各国での大幅な最低賃金引き上げの背景に、この指令も大きく影響していると言えるでしょう。

「中央値」と「平均値」って何?

ところで、ちょっと耳慣れない言葉が出てきましたので説明します。「中央値」というのは、金額の大きさで並べた時に、真ん中にくる値です。平均値は、全部の総和を件数で割ったものです。いまのように賃金が二極化している場合は特に、平均値のほうが若干高い値に引っ張られる傾向があります。

日本の水準は…?

さて、日本です。内閣府の「日本経済リポート(二〇二三年度)」には日本と各国の賃金フルタイム労働者の賃金中央値に対する最低賃金の比率が載っています。日本も徐々に上がってきているとはいえ45.6%。フランスと韓国で60.8%、イギリス58%、ドイツ52.6%と大きな差があります。

各国のフルタイム労働者の賃金中対する対する最低賃金の比率

また、国税庁の「令和六年分 民間給与実態統計調査」によれば、平均給与は478万円(男性平均587万円、女性平均333万円)です。この十月から実施の改定最低賃金の加重平均一一二一円から仮に試算すると、一一二一円で1日8時間・月20日働いた場合の年収は215万円です。給与には一時金等も含まれますので「何%」という単純な比較はできませんが、いまの日本の最低賃金の金額が、平均的な給与実態に比べて余りにも低いということは、皆さんにも感じていただけるのではないでしょうか。(前田)