下町ユニオン公開労働講座 「低賃金労働の現場から」

11月15日、下町ユニオンと労働相談情報センター亀戸事務所の共催で、『ルポ 低賃金』の著者で毎日新聞編集局社会部記者の東海林智さんを講師に、公開労働講座「低賃金労働の現場から」を開催しました。東海林さんはご自身も新聞社での組合活動を続けてこられた方でもあり、低賃金労働の実態と背景から、労働組合の可能性と課題についても語っていただきました。以下、報告です。(M)

●低賃金労働の現場から
社会に大きな出来事があった時に、まず打撃を受けるのは、不安定な人たちだ。コロナ禍で困窮した人たちは、ふだんはなんとか生きているが、何かがあると困ってしまう女性、若者、高齢者という、非正規雇用の人たち。08年のリーマンショックの時と今回では、困窮している人たちの様相がまったく異なる。今回炊き出しに並んだ人の10人中3人は高齢者。日本の貧困問題は解決していないどころか、深化している。
★例1(ヤクルト販売のシングルマザー)
「個人請負」という形で商品を買いとり、売る。完全歩合制で雇用・労災保険なし。専用保育所があるため、子どもを即、預けられる。緊急事態宣言が出ると、請負だからとヤクルト販売者には休業補償が出なかった。おかしい、との声に通常売上げの6割出すことにはなったが、リモートワークの拡大で販売する場がなくなる。子どもと心中を考えたが、最後のつもりで行ったフードコートでチョコパフェを夢中で食べて喜ぶ子どもの姿に、生きる決意をかためた。
★例2(25才 派遣社員) スーパーの試食販売をしていたがコロナで仕事がなくなる。
家賃を滞納したが派遣元も「仕事がない」と。ATMでお金をおろす特殊詐欺の「受け子」になった。映像に映るため捕まる可能性がとても高い役割だが、報酬は総額の5%=50万円のお金で2.5万円。

●なぜ困窮する人が出てくるのか
一九九五年日経連の「新時代の日本的経営」が雇用を破壊し、労働者に明らかな分断を生み出した。昨今ハラスメントが広がる背景には、この引き裂かれた分断がある。
また、会計年度任用職員は 一年ごとにクビにされる公務員 ということだが、自治体に大きく広がり東京の23区では公務員全体の4割を超えている。しかも公務員なので法的には最低賃金が適用されない!

●公正な分配を! ~二〇二四年春闘から
春闘の5.1%引き上げで「33年ぶりの高水準」というが、今年そんなに景気がよかった訳ではない。この30年、本当はもっと賃上げできたのではないか。労働組合が「公正な分配」を求めてこなかったのではないか。賃上げがなかったもう一つの大きな原因は、政権交代がない国だったから、ということにもあると思う。

●少しは元気のでる話も…
昨年8月31日に、そごう・西武労組が池袋本店で61年ぶりに1日ストライキに突入、約900人の組合員が参加した。寝耳に水の売却問題で、ストの趣旨は「情報を公開せよ」「団体交渉に応じろ」。結果は売却されたが、新しい所有者からは、ストを打つ労働組合として、よい交渉ができている、ということだ。スト権を自分たちのものにするたたかいが、大切になってくると思う。

[参加者の質問、感想から]
★ストライキについて、組合員の理解を得るには?→地域の人たちに理解を得られることが大事。
★下請けが増え、職場の構造的な分断を感じてきた。現場の仕事を知らない人間が管理者になる状況では、仕事は雑になり、知らない側は不安だらけで精神的にまいってしまう。人を育てられる職場を望む。
★かつてストライキをした時に「迷惑」と言われた。それは、世の中に必要とされている仕事だからこそ、言われるのではないかと考えた。