最低賃金ものがたり 10
下町ユニオンニュース 2026年3月号より
この連載も、ついに十回目を迎えました。こんなに長くなるとは予想していなかったのですが、もうしばらくお付き合い下さい。
さて、前回までは最低賃金の制度の現状についてお伝えしてきました。これからは、日本の最低賃金の歴史を、(本当に簡単に!)振り返ってみたいと思います。
●世界で初めての最低賃金
世界で初めて最低賃金を定めたのは、一八九四年、ニュージーランドでした。ついで一九〇七年にオーストラリアで、その後二〇世紀に欧米各国を中心に急速に拡大していきます。一九一九年にはILO(国際労働機関)が創設され、一九二八年にはILOで「最低賃金決定制度の創設に関する条約」(第26号)が採択されます。
●日本の最低賃金をめぐる前史
日本では、一九二〇年に友愛会主催の第一回メーデーで「最低賃金法の制定」が要求項目として掲げられました。しかし最低賃金の要求が運動として大きな波になるまでには至りませんでした。この後、日本が戦争に突き進む中で、一九三八年には国家総動員法が制定されます。そして戦時経済へと一層すすむ中、一九三九年には「(第一次)賃金統制令」が制定され、国家による賃金統制が行われていきます。翌四〇年には「(第二次)賃金統制令」で、最低賃金が、最高賃金とともに公的に定められることになりました。しかしその目的は戦争のための統制であり、働く人の権利 を守るというには程遠いものでした。
●戦後日本の最低賃金 出発への糸口
敗戦後の日本で一九四五年には、労働組合法が制定されます。労働組合の運動が急速に活発化する中で、最低賃金制度の確立を求める動きが目標の一つとなってきます。
一方、政府は、戦前の賃金統制令にあった最低賃金条項の具体化にむけて中央賃金委員会を開催し、最低賃金改正案を設定しようとする動きがありました(賃金統制令は一九四六年九月三〇日に国家総動員法の廃止により失効)。結果としては実施されませんでしたが戦後初の政府による対応ではありました。
そして、一九四七年には労働基準法が定められます。労基法の28条から31条では最低賃金についての規定が盛り込まれました。これは日本で初めての最低賃金についての法律です。法律として初めてふれられたことは、とても大きな意義がありますが、実際に最低賃金が制度として具体化していくのは、もう少しあとの時期を待つことになります。
(前田かおる)
【参考文献】
・「最低賃金をひもとく」荒井勝彦、二〇二四年、文彩出版

