災害とアスベスト(石綿)について
飯田 勝泰(東京労働安全衛生センター)
下町ユニオンニュース 2025年1月号より

昨年の元旦夕刻、能登半島を最大震度七の地震が襲いました。あれから一年がたとうとしています。一二月の国会で能登地震の復旧・復興に約七千億円の補正予算が計上されました。これまでの激甚災害にくらべ、政府の対応が遅いと言わねばなりません。
東京労働安全衛生センターでは、二一年三月の東日本大震災を契機に災害とアスベスト問題に取り組んできました。
アスベスト(石綿)は発がん物質です。アスベストの使用は国内で二〇〇四年に全面禁止されましたが、欧米に比べ規制が二〇年以上遅れたため、今後もアスベストによる健康被害が避けられない状況にあります。アスベストにばく露(吸入)すると、二〇年~四〇年の潜伏期間をへて、胸膜や腹膜の中皮腫、肺がん、石綿肺など、重篤な疾患となるおそれがあります。
日本ではアスベスト使用は禁止されたものの、建築物の建材に使われたアスベストがまだ大量に残っています。「静かな時限爆弾」といわれるアスベストは、大規模自然災害時に突然牙をむきます。地震、津波、豪雨、洪水で建築物が壊れたり、ガレキとなって散乱した建材からアスベスト粉じんが飛散する恐れがあります。
能登半島地震がおきてから、五月、八月、一二月の三回にわたり、輪島市、七尾市、穴水町、能都町、志賀町、珠洲市を訪ね、ボランティア団体や社協に簡易防じんマスクを提供するとともに、倒壊建物や災害ゴミの仮置き場の状況を調査しました。
石川県内で倒壊家屋の公費解体の進捗状況はまだ三割程度。(一一月末現在)。そのうえ、九月の豪雨による洪水、土砂災害も加わっています。一二月に訪ねた輪島市町野町は崩れ落ちた家屋に土砂が溜まっていました。地震発災から時が止まったような情景を目の当たりにし愕然としました。県は二五年十月末には公費解体を終わらせる計画ですが、実現は困難と思われます。
毎回、七尾市内に拠点をおく被災地NGO協働センター(本部・神戸)の事務所を訪ね、スタッフから現地の復旧状況について話をうかがっています。当初、石川県はボランティアの受け入れを制限しました。食料支援が必要な避難者がまだいるのに炊き出しや弁当配布を早期に打ち切ることもあったようです。それでも経験を重ねた災害支援のボランティア組織はいち早く避難者のもとに行き、現地のニーズを的確に把握し、支援活動を展開していました。
家屋の屋根の修理作業では、ボランティアにアスベスト含有のスレートに注意喚起し、防じんマスクの着用と破損せずに除去することを心掛けているときいてうれしく思いました。
二〇二五年一月、阪神淡路大震災から三〇年をむかえます。私たちは地元の仲間とともに改めて災害とアスベスト対策の教訓を学ぶシンポジウムを神戸市内で開催します。また、三月、東日本大震災から一四年、仙台市でも同趣旨のシンポジウムを企画しています。
二一世紀、私たちは地震、津波、豪雨などの大規模自然災害は避けられません。まずだれもが生き延び、もとのくらしと地域を取り戻すことが先決です。くわえて平時において既存の建築物等に残留するアスベストの安全、確実に除去、廃棄に努め、アスベストがもたらす長期的な健康影響にも備えなければなりません。 アスベスト被害を根絶し、持続可能な社会を実現するために、災害時のアスベスト問題に取り組んでいきたいと思います。
飯田 勝泰(東京労働安全衛生センター)