地域に根ざす労働運動に向けて 小畑精武『語りつぐ東京下町労働運動史』を読む
本誌『下町ユニオン』に2011年から連載を続けてきた小畑精武さんの「下町労働運動史」が単行本として世に送り出されました。100回の連載を成し遂げられたことに敬意を表します。刊行、おめでとうございます。
一冊の本としてまとめられたことで、小畑さんの「歴史語り」の全体像が明確な輪郭をもって立ち現れてきたとの印象を持ちました。働く人々自身がその労働と生活を支えるべく格闘した一つひとつの闘いに対する関心と敬意、そしてそれを「語りつぐ」ことへの思いが本書にはあふれています。今回の単行本化は、連載がより多くの人の目に触れる機会を増すことになるだろうとも想像しています。
本書は明治期から昭和戦時期までを六つに時期区分し次のような内容で構成されます。
Ⅰ 明治時代 労働組合への道/東京市電ストライキ100周年/労働者保護・工場法への道
Ⅱ 大正時代―震災前 闘う東部労働運動の成立/東京モスリン吾嬬工場ストライキ/世界大戦と米騒動 ほか
Ⅲ 「大正時代―関東大震災「亀戸事件」 関東大震災「亀戸事件」その日/労働組合(総同盟)の救援活動/朝鮮人・中国人虐殺 ほか
Ⅳ 大正時代―震災後の労働運動 東大セツルメントの建設/南葛労働会から東部合同労組へ ほか
Ⅴ 昭和時代―戦前 女性たちの闘い/東京交通労組の争議/賛育会とあそか会/玉の井の“女性労働”/保育所をつくり働く/東武鉄道の争議 ほか
Ⅵ 昭和時代―軍国主義へ 日本主義労働運動/東京モスリン亀戸、金町の闘い/産業報国会への道 ほか
Ⅶ 昭和時代―戦時下の労働運動 嵐をついて・戦争下での印刷工/戦時下のたたかいと抵抗 ほか
目次と見出しの列記からだけでも、隅田川から東のエリア(下町)がいかに活発な労働運動の地であったかが伝わってきます。
さらに、それが工場や労働組合の内部にとどまらず、保育所、病院、授産所、私塾、クラブ、セツルメント、消費組合といった、日々の暮らしに根ざしたいとなみと地続きであったことが表現されていることも特筆されます。「女性」「大学生」「中国人」「朝鮮人」といった様々な人が、この土地で行き交い、出会い、時にすれ違い、さらには支えあっていたであろうことが示唆されています。しかし同時に差別や暴力的な排除が行われた事実があったことも忘れてはならず、それもまたこの土地には刻み込まれた重要な歴史です。そしてそれらすべてをひっくるめて、小畑さんは、「労働運動史」ととらえています。
本書は、労働と生活が息づいていた「場」(地域)の視点から労働運動の軌跡を後づけたものと言えるでしょう。労働組合運動における「地域」の意味をあらためて問いかけるものとして本書を受けとめました。
辻 智子(北海道札幌市在住。大学で社会教育・青年期教育・女性史を担当。
1997~2013年、江東区在住、元・江東ユニオン組合員)
(下町ユニオンニュース 2024年11月号より)