引っ越しから見える社会
下町ユニオンニュース 2022年2月号「リレーエッセイ 私の小箱」より
ちょっと事情があって、いま住んでいる賃貸アパートを引っ越すことになりました。職場に近い東部地域で賃貸物件を探したり、引っ越し屋さんに見積もりを依頼したりと引っ越しの準備に追われています。
改めて都内周辺で賃貸物件を探すと、単身者向きの手ごろな物件というのがなかなかありません。築年数や間取り、最寄り駅からの距離など、条件を少し考慮しただけで家賃の手ごろな物件は限られてしまいます。また、敷金・礼金・仲介手数料・保証金などを考えると家賃4か月分くらいの初期費用がかかってしまいます。
敷金・礼金・仲介手数料がいずれもゼロのUR都市機構の賃貸物件というのもあります。しかし、その多くが世帯向けで、単身者向きの物件は限られます。しかも、1Kや1DKでも家賃が月9~10万円以上の物件が多く、庶民にとってけっして借りやすい物件ではありません。結局、民間の賃貸物件を探すことになり、費用もかさんでしまいます。
昨年11月の下町ユニオン公開講座「コロナ禍で見えた貧困・格差・雇用」で、講師の藤田和恵さん(ジャーナリスト)が住まいの貧困について語っていたことが思い出されます。「新型コロナ災害緊急アクション」に相談に来る困窮者の多くが賃貸アパートではなく、ネットカフェやシェアハウス、脱法ドミトリー(ワンルームに2段ベッドで8人といった劣悪な環境)、レンタルルームなどで暮らしている、と。安心して暮らせる住居を最も必要としている人たちに、その住居が保障されていないのです。
国際的な人権基準では「居住の権利」は基本的人権とされていて、「自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利」が明記されています(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)。日本政府もこの条約に入っているので、居住の権利を人々に保障するための義務を負っています。しかし、政府や自治体による公的な住宅政策は貧弱なまま、このコロナ禍の下で住まいの貧困がどんどん広がっています。
私は今回、幸いにも次の物件を見つけられそうな感触ですが、日本社会の寒々とした住宅政策を見ると、安定した住まいをいつまで確保できるのか、非常に心もとない感じがあります。物件探しに街を歩きながらひどく寒さを感じたのは、なにも真冬で気温が低かったからだけではありません。
数年前、米国の労働運動を学ぶためにロサンゼルスを訪れた際、地域の移住労働者の労働団体が、公的支援を受けて住宅施設を建てて安価な家賃の賃貸物件を提供し、ホームレスやDV被害者のシェルターとしても活用する取り組みをしていました。日本の労働運動にとっても、決して他人事ではない重要な問題だと感じています。 (江東ユニオン A)