下町労働運動史7 【番外編】タイとカンボジアの労働事情(1)
下町ユニオンニュース 2011年10月号より
下町労働史【番外編】
小畑 精武
タイとカンボジアの労働事情(1)
東京と変わらないバンコク
労働ペンクラブ(労働関係のジャーナリストを中心する友好クラブ)の一員として九月四日から一一日まで、タイ、カンボジアを訪問しました。タイは成田よりも大きい空港がバンコク郊外にあり、都心への高速道路は日本より広く、こざっぱりとした高架線の電車も走り、高層ビルも東京都と変わりません。ホテルのそばには朝から屋台が並び、三輪タクシー(トクトク)が人を呼びとめています。バイクの二人乗りも後ろはお客さん、バイクタクシーも短い距離には便利です。通勤には多くのバイクが使われています。
日額三〇〇バーツ(九〇〇円)の最賃をめぐって
新しい女性首相のインタック政権になってもめているのが最賃(最低賃金)問題です。公約の最賃日額三〇〇バーツの実施に向けて、労働組合は全国一律の公約を守れ、守れない場合には訴訟を起こすと強気です。経営側は「中小企業がつぶれる。解雇が出る。」と日本と同じ反対の論調です。今年一月に最賃は上がったばかりですが、まだまだ生計費には遠い状態にあります。タイ経済はリーマンショックも乗り越え、二〇〇一年から一〇年間の
間にGDPは約二倍に、しかし賃金は四割しか上がっていません。平均賃金は九二六二バーツ、約二万八千円です。労働者の不満が高まるのは当然で、最賃の決着はまだです。
タイの労働組合組織率はたったの2%しかありません。それでも、日本を含む外資系の会社等で労使紛争が二〇〇九年後半から多発したそうです。日系企業に雇用される労働者は一〇〇万人ともいわれ、国別では最も多く、最近は中小企業の進出増加し、労使紛争は日系企業でも大きな問題になりました。紛争の形態は公道封鎖や大使館への抗議などとともに「残業拒否」が圧倒的です。ストそのものはごくわずかとのことでした。
二一秒ラインにくぎ付け
タイホンダ工場では主として東南アジア向けの二輪車(二人乗り)を年間一四〇万台生産しています。工場はきれいでよく整理整頓さ
れていました。七四〇〇人が現代的流れ作業で働き、女性はその三割、賃金も同一で生産ラインにも男性と同じ制服で働いています。平均年齢は二九歳と若い!一二〇メートルのエンジンと組み立て完成ラインがあり、流れ作業は各工程が二一秒、三〇分で完成ですから、六〇分で一台完成します。二一秒のうちに部品を組み込み複数のボルトなどで固定するので、脇目をふる暇もなく(なかにはチラッと見学しているわれわれに目をやる労働者もいましたが)、黙々と働いていました。
賃金は一万バーツですから、平均より少し高い水準です。それでもバイクを買うには三~四カ月分の月給が必要とのこと。「三〇〇バーツの最賃は中小には大変だが、効率化で吸収できます」と日本人社長。地域の学校への奨学金や図書の寄付、工場の緑化など地域貢献もしています。正規雇用は三〇〇〇人で五五歳定年、なかなかやめないそうです。非正規は一年契約の期間雇用でやめる人はいるが、採用には困っていないとのことでした。