★書 評★ 「小さな労働組合勝つためのコツ」

下町ユニオンニュース 2023年4月号より

札幌地域労組専従 鈴木一 著 寿郎社刊 2022年 本体1800円+税

 この本は「下町ユニオン」が加盟している「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」の一員である「札幌地域労組」で、長く専従役員を務め、数多くの組合結成や争議解決をしてきた鈴木一さんが、これまでの体験と「ノウハウ」を惜しげもなく披瀝したものです。

 冒頭で「日頃から労働相談を受けている人や労働組合をサポートしている人、これから労働組合を作ろうとしている人のために」書いたと言い、「法律だけでは勝てません!」と表紙の帯に書かれています。実際の組合結成、実際の会社との交渉過程で、組合専従者がどのような心構え、心配りで戦略を立てていくべきなのか、具体的に書かれており、専従者にとっては、自らの活動をあらためて自覚化して検証する、バイブル的な価値を持つと思います。

 しかし、この本は、組合専従者ではないごく普通の組合員にとっても、「ユニオン」であることの意味について考え、これから自信を持って活動していくためのヒントもたくさん含まれています。

 組合結成は仕事と仲間への気持ちが核心
 相談を受けるときには最初はLINEやメールであっても必ず電話で話すことにしているそうです。相談者の口調や態度からその人柄が見えてくるからだと言います。職場での組合結成が可能かどうかは職場の悩みを聞きながらその人が職場で仲間を作れそうかどうか、「あなたが職場でカラオケに行こうって誘ったら、何人集まりますか?」と質問してわかるそうです。面談で二、三時間聞き役に徹し、相談者が「組合結成に驚く社長の顔をただ見たいだけなのか、あるいは職場環境の改善や仕事のやりがいを求めているのか、利用者や顧客にもっと良いサービスを提供したいのか、そもそも仕事への熱意があるのか、仲間に対してどのような思いを持っているのか……」を観察し、「本当に仕事が好きで、今の職場を良くしたいという強い思いがある――。そういう人々を私は団結させ、組合を作ってきました。」と言います。

 個人加盟は事前に保険として入るのが理想
 個人加盟の場合、賃金など労働条件を上げる事はたしかに難しいが、不利益変更の場合にはとてつもない力を発揮出来る、その点からも問題発生後でなく保険のように事前に加入しておくのが理想だ、というのは納得できます。
 様々なケースが取り上げられていますが、交渉の時は確実な情報しか使えない事や、こちらの一手に対して使用者側はどう出てくるか、最悪の場合も考えて闘いを組み立てていく、というのは、とても重要だと思いました。専従や個人加盟の仲間と共に考え行動していくことが、「不安感や怒り」のみによって心理的に追い詰められてしまうことから逃れ、冷静さと強さを保てると実感するからです。そうした自覚性で闘いを完遂することが、ユニオンを一時的な駆け込み寺でなく、これからも続く人生に、仲間との結合の形として持続させることに繋がると思いました。
 事例を読むだけでも、励まされる本です。   (ビルメンユニオン 石頭)