国のハラスメント防止指針をめぐる今後の課題 ~国際的な潮流に逆行する日本(2)

下町ユニオンニュース 2020年3月号より
               天野 理 (江東ユニオン・東京労働安全衛生センター分会)
職場のハラスメント禁止に向けた国際的な潮流と、それに逆行する日本の現状と課題について、前回に引き続き報告します。
1 労働政策審議会での議論と問題だらけの指針案
 2019年9月、厚労省の労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)において、パワハラ防止の法制化に基づき、パワハラに該当する事例や事業主が取るべき措置の具体的内容などを定める「パワハラ防止指針」の検討が始まりました。
 10月21日の分科会で、厚労省からこの指針の「素案」が発表されました。しかし、その内容は、対象となるパワハラを非常に限定し、企業に求める措置義務の内容も相談窓口の設置など表面的な対策だけでした。
特に酷かったのが、「パワハラに該当しないと考えられる例」が列挙されたことです。そこには、パワハラの温床となる「個室での研修」や、追い出し部屋を連想させる「経営上の理由で簡易な業務につかせること」などが、パワハラにあたらない事例として書かれていました。
 これに対して、「この素案は、まるで加害者・使用者の弁解カタログだ」と、多くの労働団体や当事者団体から強い怒りの声が挙がりました。東京労働安全衛生センターでも他の団体と共に、この指針素案の即時撤回を求める抗議声明を発表しました。
それを受けた11月下旬の分科会では、素案を修正したものが新たな指針案として示されました。しかし、その修正案も、「パワハラに該当しない例」を一部修正した程度で、多くの部分が素案のままという極めて不十分なものでした。その会議の中で、労働者側委員(連合)から「この修正案でも事業主に悪用される懸念がある」など反対意見が出されました。しかし、最後には使用者側委員(経団連)らに押し切られ、この不十分な案でパブリックコメントにかけることが決まりました。
2 無視された一千件のパブリックコメント
 
パブリックコメントの募集では、1039件という異例の数の意見が寄せられました。その多くが指針案の修正を求める意見でした。東京労働安全衛生センターも、「パワハラに該当しない例」をすべて削除することや、パワハラ問題の根源にある職場環境の問題(過剰なノルマ、無理な人員削減など)に切り込む対策を指針に盛り込むこと、などを求める意見を出しました。
 しかし、2019年12月23日の労政審において、指針案は一切修正されることなく了承されてしまいました。修正を求めた1000件余りの意見は無視され、ハラスメントの定義を狭くとらえ事業主の措置義務も不十分なままの内容で、指針案は成立してしまったのです。
ハラスメント対策に終始否定的な姿勢を示した経団連だけでなく、その意見にきちんと抵抗せず、ずるずると引きずられた労働側(連合)の責任も重大です。私は、今回の労政審を傍聴していて、労働者の声に応える闘う労働運動の必要性を強く感じました。
〈 (3)に続く